
こんにちは、獣医師の林です。
この夏、熊本県では大きな地震が発生し、さらに8月には千葉県でも記録的な豪雨による浸水被害が発生しました。
被災された皆さま、そして一緒に暮らすワンちゃんや猫ちゃんたちが、少しでも安心して過ごせる環境にありますことを心より願っております。
こうした出来事を目の当たりにするたびに、私たち自身も「もしものとき、大切な家族である愛犬を守るために何ができるだろう?」と、改めて備えについて考えることが大切だと感じます。
9月1日は「防災の日」です。
地震や台風、大雨などの災害は、いつ起こるか分かりません。
人用の防災用品は準備していても、
「愛犬のごはんは何日分必要?」
「避難所には一緒に入れるの?」
「いつものお薬はどうしたらいい?」
など、愛犬のための防災準備については、何から始めればよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
災害時は、大きな音や揺れ、慣れない場所やにおい、人や動物の気配、生活リズムの変化など、愛犬にとっても大きなストレスがかかります。
その結果、食欲が落ちたり、下痢や嘔吐をしたり、眠れなくなったりすることもあります。
特に小型犬は、体が小さい分、下痢や嘔吐による脱水の影響を受けやすく、子犬や超小型犬では、食べられない時間が長くなることで低血糖を起こすこともあります。
また、暑さや寒さなどの気温変化の影響も受けやすいため、平時からできる準備をしておくことがとても大切です。
今回は、小型犬との避難で起こりやすい困りごとや、最低限そろえておきたい備蓄品、避難生活中に気を付けたい健康管理についてご紹介します。

【🐶小型犬との避難で起こりやすい困りごと】
小型犬は抱っこやキャリーで移動しやすいというメリットがありますが、避難生活ではさまざまな困りごとが起こる可能性があります。
例えば、
- キャリーやクレートに入ることを嫌がる
- 大きな音や人の多さに驚いて吠える、震える
- 慣れない場所でごはんや水を口にしない
- ストレスから下痢や嘔吐をする
- 普段と違う場所では排泄できない
- 床からの冷気や熱気の影響を受ける
- 落ちている食べ物や薬、ゴミなどを誤食する
- ほかの犬や猫の存在に強いストレスを感じる
などが挙げられます。
また、「同行避難」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
同行避難とは、災害が発生した際に飼い主さんと愛犬が一緒に安全な場所まで避難することをいいます。
ただし、必ずしも避難所の同じ室内で一緒に過ごせるという意味ではありません。
避難所によっては、ペット専用のスペースが設けられていたり、屋外や別室での飼育となったりすることがあります。
住んでいる地域ではどの避難所がペットを受け入れているのか、愛犬とはどのように過ごすことになるのか、事前に確認しておきましょう。
【🎒最低限そろえておきたい愛犬の備蓄品】
災害時には物流が止まり、いつも購入しているフードや薬が手に入らなくなる可能性があります。
愛犬用の防災バッグを作り、定期的に中身を見直す習慣をつけておきましょう。
1.普段食べているごはん
ペットフードは少なくとも5日分、できれば7日分以上を目安に備えておくと安心です。
特に、
- 療法食を食べている
- 食物アレルギーがある
- 特定のフードしか食べられない
- お腹が弱く、フード変更で下痢をしやすい
というワンちゃんは、少し多めに備えておくことをおすすめします。
災害時だからといって急に食べ慣れていないものを与えると、消化器症状につながる可能性があります。
普段食べているフードを少し多めに購入し、古いものから日常的に使いながら、使った分だけ買い足していく「ローリングストック」をすると、賞味期限切れも防ぎやすくなります。
一緒に、
- 折りたためる食器
- 計量カップやスプーン
- フードを小分けにできる保存袋
- 食欲が落ちた時にも食べられる、食べ慣れたウェットフード
なども準備しておきましょう。
「災害時に食べなかった時用」として特別なものを用意する場合も、災害時に初めて与えるのではなく、普段から一度試しておくことが大切です。
2.飲み水
人用の飲料水だけでなく、愛犬用の飲み水も準備しておきましょう。
避難生活では、緊張やストレスによって水を飲まなくなることがあります。
一方で、暑さによるパンティングや下痢、嘔吐などが起こると、体から水分が失われてしまいます。
特に小型犬は体が小さいため、水分が失われた際の影響が大きくなることがあります。
普段から食べ慣れているウェットフードを利用したり、フードに水を加えたりすることも水分摂取のひとつの方法です。
ただし、心臓病や腎臓病などがあり、普段から飲水量や食事内容について指示を受けている場合には、災害時にどのように対応すればよいのか、事前にかかりつけの先生に相談しておきましょう。
3.常備薬・療法食
持病があるワンちゃんの場合には、普段飲んでいるお薬や療法食も重要な備蓄品です。
災害時には、いつもの動物病院を受診できない可能性もあります。
そのため、
- 薬の名前
- 1回に与える量
- 1日に与える回数
- 薬を飲ませる理由
- 現在治療している病気
- 過去に副作用が出た薬
- 食物や薬のアレルギー
- かかりつけ動物病院の連絡先
などをまとめておきましょう。
お薬によって保存方法や処方できる量が異なるため、「災害に備えて予備の薬を用意できますか?」と次回の診察時に相談しておくのもおすすめです。
4.トイレ・衛生用品
避難生活では、普段のように自由にお散歩へ行けるとは限りません。
また、避難所では排泄物の処理やにおいが周囲とのトラブルにつながることもあります。
- ペットシーツ
- うんち袋
- 防臭袋
- ビニール袋
- ウェットティッシュ
- タオル
- 新聞紙
- 消臭用品
- マナーウェア
なども用意しておきましょう。
普段、お外でしかトイレをしない子の場合には、災害時に外へ出られなくなる可能性を考え、室内のペットシーツでも排泄できるよう少しずつ練習しておくと安心です。
5.愛犬の健康記録
災害時には、かかりつけではない動物病院を受診することも考えられます。
その際、愛犬についての情報がまとめられていると、診察や治療がスムーズになります。
- 名前
- 犬種
- 性別
- 生年月日、年齢
- 現在の体重
- 既往歴
- 現在治療中の病気
- 投薬内容
- 食物、薬のアレルギー
- 普段食べているフード
- 1日の食事量
- ワクチン接種歴
- 狂犬病予防接種歴
- マイクロチップ番号
- かかりつけ動物病院の情報
などを紙にまとめ、防災バッグに入れておきましょう。
スマートフォンにも同じ情報を保存しておくと、より安心です。
アニコムさんの「#防災をつくろう」というページには、無料でダウンロードできるオリジナル防災手帳がありますので、そちらを印刷して記入し、防災バッグに入れておくのも良いかもしれません。
また、愛犬だけの写真に加えて、飼い主さんと愛犬が一緒に写っている写真も保存しておきましょう。
万が一離ればなれになってしまった場合に、飼い主さんであることを説明する際にも役立ちます。

【🍴環境変化による食欲低下・下痢・ストレスへの備え】
災害時には、普段食べているごはんであっても、緊張から食べられなくなることがあります。
食べないからといって、普段食べていないものを次々に与えてしまうと、胃腸への負担となり、さらに下痢や嘔吐を起こしてしまうことがあります。
まずは愛犬が少しでも安心して過ごせる環境を作ってあげましょう。
例えば、
- 人や動物の出入りが少ない場所で休ませる
- キャリーやクレートに布をかけて視界を遮る
- 普段使っているタオルや毛布を入れる
- 飼い主さんのにおいが付いたものを入れる
- 普段と同じ時間に食事を出す
- いつも使っている食器を使う
- 食事は一度にたくさん与えず、少量ずつ試す
といった工夫があります。
お気に入りの毛布やおもちゃなど、「いつものにおい」がするものを防災バッグに入れておくこともおすすめです。
ただし、
- 嘔吐や下痢を繰り返す
- 血便が出る
- 水も飲めない
- ぐったりしている
- 呼吸が苦しそう
- けいれんが見られる
- 意識がいつもと違う
といった場合には、「ストレスのせいだろう」と様子を見続けず、可能な限り早く獣医師へ相談しましょう。
【🌡️避難所や車内で注意したい体温・水分・誤食対策】
1.体温管理
小型犬は体が小さく、床面に近い場所で生活しているため、暑さだけでなく床からの冷気の影響も受けやすくなります。
キャリーやクレートを床や地面へ直接置かず、下に段ボールやマット、タオルなどを敷くだけでも対策になります。
暑い時には、
- 激しいパンティング
- よだれが増える
- 舌や歯茎が強く赤くなる
- ふらつく
- ぐったりする
などがないか確認しましょう。
寒い時には、
- 震えが続く
- 体を小さく丸める
- 耳や足先が冷たい
- 動きたがらない
などの変化に注意します。
2.水分管理
避難生活では、愛犬が実際にどのくらい水を飲んでいるのか分かりにくくなります。
可能であれば、1日に用意した水の量と残った量を確認しておきましょう。
飲水量だけでなく、
- 尿の回数
- 尿の色
- 口の中の乾燥
- 食欲
- 元気
なども一緒にチェックすると、体調の変化を見つけやすくなります。
3.誤食対策
避難所や車内では、普段の自宅にはないものが周囲に増えます。
人の食べ物や薬、乾燥剤、ゴミ、保冷剤など、ワンちゃんが誤食すると危険なものも少なくありません。
小型犬は狭い隙間にも入りやすいため、キャリーから出す際にはリードを装着し、周囲に危険なものが落ちていないか確認してから出してあげましょう。
4.車内で避難生活をする場合
避難所ではなく、車の中で過ごすケースもあります。
その場合に特に注意したいのが、車内温度です。
日陰に駐車していたり、窓を少し開けていたりしても、条件によっては車内温度が大きく上昇することがあります。
愛犬だけを車内に残さず、温度や換気をこまめに確認し、いつでも水を飲める環境を作りましょう。
また、移動する際にはキャリーやクレートが車内で動かないよう固定し、急ブレーキや余震などによる転倒にも備えてください。

【🏠今日からできるキャリー・クレート練習】
災害が起こってから突然、
「長時間キャリーの中で過ごしてね」
と言われても、普段キャリーに慣れていないワンちゃんにとっては大きなストレスです。
特に、
「キャリーに入る=動物病院へ行く」
と覚えてしまっている子の場合には、キャリーを見るだけで逃げてしまうこともあります。
普段からキャリーやクレートをお部屋に置き、「安心して休める場所」にしておきましょう。
最初は扉を開けたままにして、
- 中におやつを入れる
- お気に入りの毛布を入れる
- 中でごはんを食べてもらう
などから始めます。
自分から入れるようになったら、
①数秒だけ扉を閉める
②少しずつ扉を閉める時間を延ばす
③キャリーに入った状態で家の中を移動してみる
④車に乗せて短時間過ごしてみる
というように、少しずつステップアップしてみましょう。
「閉じ込められる場所」ではなく、「ここに入れば安心できる」と感じてもらうことがポイントです。
【🔍防災準備と一緒に健康チェックもしてみましょう】
災害時に愛犬の体調変化へ早く気付くためには、「普段はどんな状態なのか」を知っておくことも大切です。
この機会に、
- 現在の体重
- 1日に食べている量
- 普段の飲水量
- 便の回数や状態
- 尿の回数や色
- 安静にしている時の呼吸の様子
- 歯茎の色
- 現在飲んでいる薬
- 持病やアレルギー
などをチェックし、記録してみましょう。
また、防災バッグは一度作って終わりではありません。
フードや水の賞味期限、お薬の内容、首輪やハーネス、リードの劣化、キャリーのサイズなども定期的に見直す必要があります。
子犬の頃に購入したキャリーが、現在の体格には小さくなっているということもあります。
半年に一度程度、「愛犬の防災用品を確認する日」を決めておくのもおすすめです。

【まとめ】
防災対策というと、特別なグッズをたくさん買わなければいけないように感じるかもしれません。
しかし、
「普段食べているごはんを少し多めにストックする」
「薬や健康状態を紙にまとめておく」
「キャリーの中で落ち着いて過ごす練習をする」
「愛犬と避難できる場所を調べておく」
など、今日からできることもたくさんあります。
そして、愛犬のための防災準備でとても大切なのは、
「何かあった時にどうするか」を平時に考えておくことです。
災害が起きてからでは、飼い主さん自身も不安でいっぱいになり、冷静に判断することが難しくなります。
9月1日の「防災の日」をきっかけに、人用の防災バッグと一緒に、愛犬用のごはんや水、お薬、健康記録、キャリーなどもぜひ一度見直してみてくださいね。
普段の小さな準備が、もしもの時に大切な愛犬を守ることにつながります。
