
こんにちは、獣医師の林です。
暦の上では秋を迎え、少しずつ朝晩に涼しさを感じるようになる9月。とはいえ、ここ数年は「9月=もう涼しい」とはいえないような暑さが続いています。
気象庁の東京の観測データを見てみると、9月の平均気温は、
2016~2020年の5年間……平均 約23.9℃
2021~2025年の5年間……平均 約25.3℃
となっており、直近5年間では、その前の5年間より約1.4℃高くなっています。
特に2023年は26.7℃、2024年は26.6℃、2025年は26.5℃と、3年連続で9月の平均気温が26℃台となりました。
(気象庁「過去の気象データ検索・東京」より)
つまり最近の9月は、
「暦は秋だけれど、体にとってはまだ夏の延長」
ともいえる時期なのです。
そこへ朝晩の気温低下や冷房による冷えなども重なり、
- 「最近ちょっと食欲にムラがある」
- 「便が少しやわらかい」
- 「寝ている時間が増えた」
- 「お散歩に行きたがらない」
- 「なんとなく元気がない」
といった変化が出てくるワンちゃんもいます。
今回は、そんな季節の変わり目に起こる、いわゆる「秋バテ」について、西洋医学だけでなく東洋医学の考え方も交えながらお話ししていきます。

【🍂ワンちゃんにも「秋バテ」はあるの?】
「秋バテ」という言葉は、獣医学的な正式な病名ではありません。
残暑や寒暖差、夏から秋への生活環境の変化などが重なることで、食欲や胃腸の状態、睡眠、活動量などに変化が見られる状態を、わかりやすく「秋バテ」と表現しています。
特に近年の9月は、
- 日中はまだ暑い
- 朝晩は涼しくなる
- 室内では冷房を使う日もある
と、「暑さ」と「冷え」が同居しやすい季節。
体はまだ夏の暑さに対応しながら、一方では秋に向けた調整もしなければならないため、体調を崩しやすくなる子がいても不思議ではありません。
【🌿東洋医学では「夏の消耗を抱えたまま秋へ入る時期」】
東洋医学では、夏の強い暑さは「暑邪(しょじゃ)」として体に影響し、汗や呼吸などを通して「気(き)」や「津液(しんえき=体を潤す水分)」を消耗しやすいと考えます。
ワンちゃんは人のように全身から汗をかくわけではありませんが、暑い時期にはパンティングによって体温を下げます。
暑さが長く続けば、それだけ体温調節にエネルギーを使う期間も長くなります。
さらに夏は、
- 暑さによる食欲低下
- 運動量の低下
- 冷房の効いた環境
- 冷たい食事や水分
- 高温多湿
などの影響が重なることで、東洋医学で消化吸収を担うと考えられている「脾胃(ひい)」も疲れやすくなります。
脾胃が弱ってくると、
- 食欲にムラが出る
- 軟便になりやすい
- なんとなく元気がない
- 疲れやすい
- 寝ていることが増える
といった変化として現れることがあります。
そこへ秋になると加わってくるのが「燥(そう)=乾燥」です。
秋は少しずつ空気が乾燥し、東洋医学的には体の潤いも消耗しやすい季節と考えます。
つまり9月は、
夏に消耗した「気」と「潤い」を補いながら、疲れた「脾胃」を整え、これからやってくる秋の「燥」に備える時期
と考えるとよいでしょう。
【🌡️9月に体調を崩しやすい3つの理由】
①まだまだ続く「残暑」
9月に入っても日中は30℃を超えるような日があります。
真夏ほどではないから大丈夫、と油断しがちですが、気温だけでなく湿度が高ければ体温を逃がしにくくなります。
お散歩では気温・湿度とともに、
- パンティングが強くないか
- 歩くスピードが落ちていないか
- 途中で立ち止まらないか
なども見てあげましょう。
②朝晩と日中の「寒暖差」
朝は涼しかったのに、昼間は真夏のような暑さ、そして、日中は暑くても夜になると急に涼しくなる。
こうした気温差が大きくなるのも秋口の特徴です。
特に小型犬は床に近い場所で生活しているため、人が感じている室温だけでなく、愛犬さんが実際に寝ている場所の温度も確認してみてください。
③夏の生活リズムが残っている
夏の間、
- 「暑くてお散歩時間が短くなった」
- 「日中はほとんど寝ていた」
- 「冷房の中で過ごす時間が長かった」
というワンちゃんも多いと思います。
涼しくなったからといって、突然長時間のお散歩へ戻すと、夏の間に活動量が落ちていた子には負担になることもあります。
生活も食事も、夏仕様から秋仕様へ少しずつ切り替えることがポイントです。
【🔍秋バテ?まずチェックしたい7つのこと】
「なんとなく元気がないな」と思ったら、次の項目を確認してみましょう。
①元気・活動量
いつも通りお散歩や遊びに反応するでしょうか?
②食欲
食べる量だけでなく、「食べ始めるまで時間がかかる」「朝だけ食べない」などの変化もチェックします。
③水分摂取量
極端に飲む量が増えたり、反対にほとんど飲まなくなったりしていないでしょうか?
④便
やわらかくなっていないか、回数が増減していないかを確認します。
⑤嘔吐
吐いた回数だけでなく、食後なのか空腹時なのか、水まで吐いてしまうのかなども大切です。
⑥睡眠
睡眠時間が増えていても、起きたあとは普段通り活動できていれば問題のないこともあります。
「寝る時間」だけでなく、起きている時間の元気さも見てあげましょう。
⑦体重
特に小型犬では、私たちにとってはわずかに見える数百gの変化でも、体重に占める割合は大きくなります。
食欲が不安定な時期ほど、定期的に体重を測っておくことをおすすめします。

【🏥様子を見てもよい?動物病院へ行ったほうがよい?】
一時的に、
- 1食だけ食欲が落ちた
- 便が少しやわらかい
- いつもよりよく寝ている
- 暑い時間帯だけ動きたがらない
といった変化があっても、その後元に戻り、元気や水分摂取量に問題がなければ、無理をさせず休ませながら経過を見られるケースもあります。
ただし、小型犬だからこそ「食べない」「吐く」といった状態を長く様子見しすぎないことも大切です。
- 食欲不振が続く
- 嘔吐を繰り返す
- 水を飲んでも吐いてしまう
- 下痢を繰り返す
- 血便や黒っぽい便が出る
- 明らかに元気がない
- 呼吸が普段と違う
- 短期間で体重が減っている
- 震える、痛がる、ぐったりしている
- 水分摂取量や尿量が極端に増減した
といった場合には、「季節の変わり目だから」「秋バテかな?」だけで済ませず、早めに動物病院へ相談してください。
特に子犬、シニア犬、心臓・腎臓・消化器などに持病のあるワンちゃんは、早めの受診をおすすめします。
【🍴秋の養生① まずは「脾胃」を休ませる】
東洋医学的に、夏の疲れを秋へ持ち越さないためにまず意識したいのが、脾胃=胃腸をいたわること。
食欲が戻ってくると、
「やっと食べられるようになった!」
とうれしくなり、ついたくさん食べさせたくなりますよね。
でも、夏の間に食事量が減っていた子に、いきなり以前と同じ量を与えると、胃腸が追いつかないことがあります。
そんなときには、
- 1回量を少なくする
- 食事回数を分ける
- 便の状態を見ながら徐々に量を戻す
- 急に脂質の多いものを増やさない
- たくさんのトッピングを一度に追加しない
- 冷蔵庫から出した直後など冷たすぎる状態を避ける
といった工夫を。
東洋医学では脾胃は冷えや湿気の影響を受けやすいと考えます。
だからといって必ず温かいものを食べさせなければならないわけではありませんが、胃腸が疲れているときは「冷たすぎない・多すぎない・複雑にしすぎない」という考え方がおすすめです。
【💧秋の養生② 「潤い」を意識する】
夏の暑さで消耗した水分に、秋の乾燥が重なる9月。
東洋医学では、秋は「燥邪」の影響を受けやすく、特に「肺」と関係の深い季節とされています。
肺は呼吸だけでなく、皮膚や被毛、体の水分の巡りとも関係すると考えられています。
そのため、
- お水をきちんと飲めているか
- 食事からも水分を摂れているか
- 皮膚や被毛が乾燥していないか
- 便が硬くなっていないか
などもチェックしてみてください。
ウェットフードのように食事から自然に水分を摂れるごはんも、秋の水分補給に役立ちます。
【🐕秋の養生③ お散歩も少しずつ】
気温が下がってくると、ワンちゃんもお散歩へ行きやすくなります。
ただ、夏の間に運動量が落ちていた場合には、体力や筋力も少し落ちているかもしれません。
「涼しくなったから今日は倍歩こう!」
ではなく、
今日は少しだけ距離を延ばす
↓
翌日の疲れ方を見る
↓
問題なければさらに少し増やす
というように、体の様子を見ながら戻していきましょう。
食事量についても同じです。
夏に落ちていた運動量が戻るのに合わせて、食事量も少しずつ普段の量へ戻していく。
この「少しずつ」が、秋バテ対策ではとても大切です。

【🐶moncheri kitchenのごはんも、その日の体調に合わせて】
季節が変わっても、大切なのは「決められた量を必ず食べさせること」ではありません。
食欲にムラがある日は、無理に一度にたくさん食べさせず、少量ずつ分けてみる。
冷蔵しているごはんは、その子が食べやすいよう冷たすぎない状態に整えてみる。
そして、
- 「昨日より食べられた」
- 「便がいつもの状態に戻ってきた」
- 「お散歩の足取りが軽くなった」
- 「体重が維持できている」
といった小さな変化を確認しながら、少しずつ普段の生活へ戻していきましょう。
【まとめ】
近年は9月に入っても暑い日が続き、「夏」と「秋」の境目が以前より分かりにくくなっています。
体はまだ暑さへの対応を続けているのに、朝晩には気温が下がり、少しずつ乾燥も始まる。
だからこそ9月は、
「もう秋だから大丈夫」ではなく、「夏の疲れを回復させながら秋の体へ切り替えていく時期」
と考えてみてください。
東洋医学の言葉を使えば、
夏に消耗した「気」と「津液」を補い、疲れた「脾胃」を整え、秋の「燥」に備える。
難しいことをする必要はありません。
食欲、便、水分、睡眠、元気、体重。
いつもの愛犬さんとの違いに気づき、
ごはんも、お散歩も、生活リズムも「少しずつ」戻していく。
そんな毎日の小さな養生が、夏の疲れを秋まで持ち越さず、元気に季節をつないでいくことにつながります。
愛犬さんのペースに合わせながら、心地よい秋を迎えていきましょう。
