こんにちは、獣医師の石川です。
暑さがやわらぐ10月は、お天気の良い日も増え、愛犬と一緒にドライブや旅行、アウトドアへ出かけやすい季節です。
一方で、「車に乗るとよだれが増える」「しきりにあくびをする」「そわそわして落ち着かない」「しばらくすると吐いてしまう」といった様子に悩んでいるご家族も少なくありません。
このような症状は、「車酔い(動揺病)」のサインかもしれません。
車酔いというと「吐くこと」に目が向きがちですが、多くの場合、嘔吐するより前から、犬はさまざまな方法で気持ち悪さを訴えています。早い段階でそのサインに気づき、環境を整えたり、日頃から車に慣れる練習をしたりすることで、移動時の負担を減らせる可能性があります。
今回は、犬が車酔いする仕組みから、見逃したくない初期サイン、お出かけ前にできる準備、車やキャリーへの慣らし方、動物病院へ相談したいケースまで、獣医師の視点から解説します。

🚗犬はなぜ車酔いするの?
犬の車酔いには、主に「体が感じる揺れ」と「目から入る情報」のズレが関係していると考えられています。
体のバランスや動きを感知するうえで重要なのが、内耳にある「前庭系」です。車が発進したり、曲がったり、加速・減速したりすると、前庭系は体が動いていることを感知します。
一方、キャリーの中などで周囲の景色がほとんど変化していなければ、目からは「それほど動いていない」という情報が脳へ送られることがあります。
このように、前庭系、視覚、筋肉や関節などから脳へ送られる情報に不一致が生じると、吐き気や嘔吐に関係する中枢が刺激され、車酔いが起こると考えられています。
しかしながら、犬の車酔いは「揺れ」だけの問題とは限りません。
以前、車に乗ったときに強い吐き気や嘔吐を経験した犬では、「車に乗る=気持ち悪くなる」という関連を学習してしまうことがあります。その結果、まだ車が動いていない段階から、緊張したり、よだれが出たり、乗車を嫌がったりする場合があります。
また、「車に乗るといつも動物病院へ行く」「動物病院で痛いことをされた」など、犬にとって嫌な経験が繰り返されている場合には、車そのものに不安や恐怖を感じるようになることもあります。
つまり犬の車酔いでは、身体的な動揺病と心理的な不安が重なっていることがあり、それぞれを考えて対策することが重要です。
🔍「吐いていないから大丈夫」とは限りません
犬は人のように「ちょっと気持ち悪い」と言葉で伝えることができません。そのため、ご家族が行動の変化から吐き気を読み取ることが大切です。
車酔いの初期には、次のような様子がみられることがあります。
- よだれが増える
- 口や鼻の周りをしきりになめる
- あくびが増える
- 落ち着かず、そわそわする
- ハアハアが増える
- 鼻を鳴らす、鳴き続ける
- 何度も姿勢を変える
- 普段より元気がなくなる
- 車に乗ることを嫌がる
さらに症状が進むと、吐き気が強くなり、えずきや嘔吐、場合によっては下痢につながることもあります。
大切なのは、嘔吐だけを車酔いの判断基準にしないことです。
たとえば「車に乗って10分ほどすると必ずよだれが増える」「高速道路では大丈夫だが、カーブの多い道になると落ち着かなくなる」など、一定のパターンがみられることがあります。
いつ、どのような状況で症状が出るのかを観察しておくと、その後の対策を考える際や、動物病院へ相談する際にも役立ちます。

🍴お出かけ前の食事はどうすればいい?
一般的に車酔いしやすい犬では、出発直前にたくさん食べてお腹がいっぱいになった状態で移動することは避けたほうが良いです。
一方で、「車に乗る日は必ず長時間絶食させる」という方法も必ずしも良いとは限りません。
年齢や体格、普段の食事回数や基礎疾患の有無、服用している薬などによって、適切な食事の取り方は異なります。特に小型犬や子犬、食事管理が必要な病気のある犬では、長時間食事を抜くことが適さないケースもあります。
そのため基本的には、
「出発直前の満腹を避ける」
「必要に応じて食事量や時間を調整する」
という考え方をおすすめしています。
すでに車酔いが強い場合や、旅行などで長時間の移動を予定している場合は、事前にかかりつけの獣医師へ相談し、その子に合った食事のタイミングを確認しておくと安心です。
水分については、移動中も必要に応じて飲めるよう準備しておきましょう。長距離移動では休憩時に少量ずつ水分をとらせることをおすすめします。移動中はお皿からの飲水が困難なケースもあるため、場合によっては給水ボトルからの飲水も練習しておくと良いかもしれません。
🌡️車内は「涼しく、静かに、揺れにくく」
秋であっても、日差しのある車内は思った以上に温度が上がります。
犬は人よりも暑さの影響を受けやすいため、車内の温度を快適に保ち、必要に応じてエアコンを使用しましょう。「10月だから大丈夫」と考えず、車内の状態を実際に確認することが重要です。
景色の良い場所では窓を開けて温度調節をすることもあると思います。窓から犬が顔を出した状態で走行することは、飛来物による眼の損傷や、事故につながる危険があるため、避けるようにしましょう。犬の顔が出ない程度に窓を狭く開けるか、リードを短く持つ、キャリーからは出さないなど、工夫してみると良いと思います。
また、可能な範囲で、小型犬は車内を自由に歩かせるのではなく、安全に固定したキャリーや、ドライブポケットなどを使用しましょう。
安全面だけでなく、車内で体が大きく揺さぶられ続ける状況を避けるという意味でも、安定した居場所をつくることは大切です。
急発進、急ブレーキ、急な車線変更は、危険を伴うため、できるだけ一定の速度で滑らかに運転するよう心がけると良いと思います。

🛣️長距離移動なら、途中で休憩を
長時間ずっと車に乗り続けることは、車酔いだけでなく、排泄や水分補給、精神的なストレスの面でも犬の負担になります。
長距離ドライブでは、2時間程度を目安に安全な場所で休憩し、水分補給や排泄、お散歩など軽い気分転換の時間をとりましょう。
ここ数年、ドッグフレンドリーな場所も増えてきており、高速道路や道の駅ではドッグランや犬の休憩できるようなスポットが設置されていることもあります。お出かけ前に休憩できるような場所を確認しておくと安心です。ドライブ中の休憩は犬にとってとても嬉しい時間になるため、普段に比べ興奮状態にあることがあります。大きな事故を避けるためにも、サービスエリアなどでは車のドアを開ける前に必ずリードをつけ、脱走には十分に気をつけましょう。
車酔いしやすい犬では、休憩からそれほど時間が経っていなくても、よだれが急に増えたり、そわそわし始めたり、ハアハアするなどの変化がみられることがあります。そのような場合には、可能な範囲で早めに次の休憩をとってあげると良いと思います。犬も私たちと同様、緊張により排泄の間隔が短くなることもあります。普段この時間にトイレはしないから大丈夫、ではなく、犬たちのサインをキャッチアップすることも大切です。
🐶車が苦手なら「乗せて慣れさせる」は逆効果になることも
車への苦手意識がある犬に対して、「何度も乗ればそのうち慣れるだろう」と、いきなり長距離ドライブを繰り返すのはやめましょう。
怖がっている状態で強い刺激を繰り返すと、かえって「車は怖い場所」という学習を強めてしまうことがあります。
行動学では、怖がらない程度の弱い刺激から少しずつ慣らしていく「脱感作」と、その状況をおやつや遊びなどの良い経験と結びつける「拮抗条件づけ」が用いられます。
車が苦手な場合、次のようなステップでトライしてみるのも良いと思います。
- まずは、エンジンを切った車の近くで落ち着いて過ごす。
- それができたら、停車した車内へ入り、短時間過ごす。
- 次に、車内でおやつを食べたり、リラックスしたりする。
- その後、エンジンをかけた状態に慣れる。
- そして、家の周囲を数分だけ走る。
- 問題がなければ、少しずつ移動時間を延ばしていく。
ポイントは、「症状が出るまで頑張る」のではなく、「まだ余裕があるところで終わる」ということです。
途中で強いパンティング、震え、逃げようとする行動、よだれなどが出た場合は、無理に続けず、一度前のステップに戻り、やり直しましょう。
🏠キャリーも「移動するときだけ出てくる箱」にしない
小型犬では、車移動にキャリーを使用するご家庭も多いと思います。
このキャリーを「病院へ行くときにだけ突然出てくるもの」にしていると、キャリーそのものが不安のサインになってしまうことがあります。
普段から室内の安全な場所にキャリーを置き、扉を開けた状態にしておき、なんでもない時に入っても良い落ち着ける場所にしてあげると良いと思います。
中にお気に入りの毛布を入れたり、キャリーの近くや中でおやつを与えたりして、「ここに入ると安心できる」という経験を積んでみましょう。
自分から入れるようになったら短時間扉を閉め、それにも慣れてから持ち上げる、車内へ運ぶ、というように少しずつ段階を進めます。
🏥毎回吐く場合は「慣れるまで我慢」させないで
対策をしても毎回嘔吐する場合や、車に乗るだけで強い不安を示す場合には、家庭での工夫だけに頼らず、ぜひ動物病院へご相談ください。
特に、
- 車に乗るたびに嘔吐する
- よだれや吐き気が非常に強い
- ぐったりして元気がなくなる
- 震えやパンティング、逃避行動など強い不安がみられる
- 車を降りたあとも体調が戻らない
- これまで平気だったのに急に車酔いするようになった
- 嘔吐以外に、ふらつき、首の傾き、眼の異常な動きなどがある
- 旅行や帰省など、長距離移動を予定している
といった場合には、事前にかかりつけの獣医師へご相談されると良いと思います。
特に「今まで車酔いしなかった犬が突然吐くようになった」場合は、車酔いが原因でないケースもあるかもしれません。
消化器疾患をはじめ、前庭系の病気など、別の体調不良が隠れていないか確認しておくと良いでしょう。

💊必要に応じて、車酔いを抑える薬を使うこともあります
車が苦手な子でも、急に車での移動が必要となるケースもありますので、状態によっては動物病院で吐き気や嘔吐を抑える薬を処方いたします。
しかしながら、「吐かなくなった=不安もなくなった」とは限りません。
嘔吐を抑える治療と、車そのものへの恐怖や不安に対する対応は、分けて考える必要があります。不安が強い犬では、行動面へのアプローチや、必要に応じて不安を軽減するための治療を組み合わせて行った方が治療がスムーズに進むケースもあります。
人用の酔い止めなどを自己判断で与えることはせず、まずは獣医師にご相談ください。
✨「吐く前」に気づくことが、楽しいドライブへの第一歩
犬の車酔い対策で最も大切なのは、
よだれ、口をなめる、あくび、そわそわする、パンティングが増えるなど、小さな変化を「この子の車酔いの初期サインかもしれない」と気づいてあげることが重要です。
そして、
- 満腹での移動を避ける。
- 車内を快適な温度に保つ。
- 安全で安定した居場所をつくる。
- 長距離では適度に休憩する。
- 車やキャリーには、普段から少しずつ慣れてもらう。
こうした準備を重ねることで、車でのお出かけが「嫌な時間」から「楽しい場所へ向かう時間」に変わっていく可能性があります。
秋は、愛犬と一緒に楽しめる場所が増える季節です。
その子のペースを大切にしながら、無理のないドライブを楽しんでください。
