こんにちは、獣医師の林です。
11月8日は「いい歯の日」。
皆様は、ワンちゃんのお口のにおいや、ごはんの食べ方を普段からチェックされていますか?
「最近、口臭が気になる」
「ごはんを残すようになった」
「食べているときに、ぽろぽろこぼしてしまう」
こうした変化があると、「いつものごはんに飽きてしまったのかな?」と思うこともあるかもしれません。
ですが、その背景には歯や歯ぐきの痛み、噛みにくさなどが隠れていることもあります。
今回は、小型犬さんで気をつけたいお口のトラブルと、毎日のごはんの時間に確認したいポイント、ご家庭でできるケアについてお話しします。

🦷1.小型犬さんで気をつけたい歯垢・歯石・歯周病
お口の健康を考えるうえで、まず知っておきたいのが「歯垢」と「歯石」の違いです。
歯垢は、歯の表面に付着する細菌を含んだやわらかい汚れです。この歯垢が唾液中のミネラルによって硬くなったものが、歯石と呼ばれます。
歯垢は歯みがきで取り除くことができますが、硬く付着した歯石をご家庭の歯みがきで落とすことは困難です。
歯垢中の細菌などによって歯ぐきに炎症が起こった状態が「歯肉炎」。さらに進行し、歯を支える組織や骨にまで影響が及んだ状態が「歯周炎」です。これらをまとめて「歯周病」と呼びます。
つまり、歯周病は単に歯が汚れているということではなく、歯を支える部分に炎症や組織の破壊が起こる病気なのです。
小型犬さんは、お口が小さく歯が密に並びやすいことなどから、歯周病に注意が必要です。乳歯が残っている、歯並びが重なっているといった場合も、汚れがたまりやすくなることがあります。
「まだ若いから大丈夫」と考えず、その子のお口の状態に合わせて、早い時期からチェックしていきましょう。
🍚2.ごはんの食べ方に表れる、お口のサイン
お口に痛みがあっても、ワンちゃんが必ず食べなくなるとは限りません。
食べたい気持ちはあるものの、噛むと痛むために、食べ方を変えていることもあります。
例えば、次のような変化はありませんか?
- 食器に近づくのに、食べ始めるまで時間がかかる
- いつもより食事に時間がかかる
- 片側ばかりで噛むように見える、首を傾けて食べる
- 口に入れたごはんを落とす、食べこぼしが増える
- 硬いものを避け、やわらかいものだけ選ぶ
- 食事の途中でやめてしまう
こうした変化は、歯周病だけでなく、歯の破折やお口の中の傷などでも起こります。
一方で、食欲の低下には胃腸の不調やほかの病気が関係することもあるため、食べ方だけで原因を決めることはできません。
大切なのは、「好き嫌いかもしれない」と考えるときにも、お口や体調の変化がないか、一緒に確認することです。

🔍3.ご家庭で確認したいポイント
毎日のごはんやスキンシップの時間に、次のような点を見てみましょう。
- 以前より口臭が強くなっていないか
- 歯と歯ぐきの境目が赤くなったり、腫れたりしていないか
- 歯に黄褐色の付着物がないか
- 唾液やおもちゃに血が混じっていないか
- よだれが増えていないか
- 口元に触れるのを嫌がるようになっていないか
嫌がらずに触らせてくれる場合は、唇をそっとめくり、見える範囲を確認するだけで十分です。無理に口を大きく開けたり、気になる歯を揺らしたりする必要はありません。
口臭はお口の病気に気づくきっかけになりますが、においだけで歯周病と診断することはできません。
また、見える歯がきれいでも、歯ぐきの下に問題が隠れている場合があります。
食べられていることや、見た目だけを安心材料にせず、定期的な診察でも確認してもらいましょう。
🪥4.無理なく始める、毎日の口腔ケア
ご家庭でのケアの基本は、歯垢をためないための歯みがきです。
ただし、いきなり奥歯まで磨こうとすると、ワンちゃんにとっても飼い主様にとっても負担になってしまいます。
まずは、落ち着いている時間に口の周りへ短く触れ、できたら褒めるところから始めてみましょう。
慣れてきたら唇を少しめくる、歯の外側に触れる、小さくやわらかい歯ブラシを数秒当てる、というように段階を進めていきます。
歯ブラシを使えるようになったら、歯と歯ぐきの境目を意識しながら、やさしく磨きます。最初は数本だけでも構いません。嫌がる前に終わり、「これならできる」という経験を積み重ね、少しずつ毎日の習慣を目指しましょう。
すでに痛みや出血、強い口臭がある場合は、歯みがきを頑張る前に動物病院へ相談してください。
また、歯みがきだけで歯石や進行した歯周病を治すことはできません。
ご家庭のケアと、必要に応じた動物病院での検査・治療を組み合わせることが大切です。
🏥5.食べにくそうなときの対応と受診の目安
食べにくそうにしているときは、ごはんを次々に替えたり、おやつだけで様子を見続けたりせず、まず原因を確認しましょう。
受診までの食事については、いつものフードをふやかす、やわらかくするなどの工夫が可能か、かかりつけの先生に相談してください。
また、「硬いものを噛ませれば歯石が取れる」と考えて、骨や鹿の角などを与えることは避けましょう。
歯が欠けたり折れたりする原因になります。
ご家庭で器具を使って歯石を削ることや、人用の痛み止めを自己判断で飲ませることも控えてください。
口臭の悪化、歯ぐきの赤みや出血、食べこぼし、片側で噛むようなしぐさに気づいたら、早めに診察を受けましょう。
ほとんど食べられない、水も飲みにくそう、顔が腫れている、強く痛がる、出血が続く、元気がないといった場合は、その日のうちに動物病院へ連絡してください。
特に子犬さんや持病のある子では、食べない状態を長く様子見しないことが大切です。
相談するときは、「いつから」「どのくらい食べているか」「どんな食べ方に変わったか」を伝えると役立ちます。普段の食事風景を動画に残しておくのもよいでしょう。

✨6.まとめ
毎日のごはんの時間は、ワンちゃんのお口の健康に気づく大切な機会です。
「ごはんを残す」「食べこぼす」「硬いものを避ける」。
そんな変化が見られたときは、「ごはんに飽きたのかな?」に加えて、「お口に痛みや違和感がないかな?」という視点も持ってみてください。
おいしく食べられる毎日を支えるために、その子のペースに合わせた歯みがきと、定期的なお口のチェックを。
「いい歯の日」をきっかけに、ワンちゃんの食べ方やお口の様子を、改めて見直していただけたら嬉しいです。
