
こんにちは、獣医師の林です。
暑さのピークが過ぎ、少しずつ過ごしやすい日が増えてくる秋。
一方で、この時期になると、
「最近、足先をよくなめている」
「耳をかくことが増えた」
「お腹や脇の皮膚が赤くなっている」
「夏は大丈夫だったのに、秋になってかゆがるようになった」
といった変化に気づく飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
秋口はまだ暑さや湿気が残る日もある一方で、少しずつ空気が乾燥し始めます。
さらに、花粉やハウスダスト、ダニなどの環境要因が重なり、もともと皮膚が敏感なワンちゃんでは、かゆみや赤みなどの症状が目立ちやすくなることがあります。
そして、愛犬がかゆがっている姿を見ると、
「今のごはんが合わなくなったのかな?」
「もしかして食物アレルギー?」
と、まず食事が気になる方も多いと思います。
もちろん、食べ物が皮膚症状に関係することもあります。
しかし、犬のかゆみには食事以外にもさまざまな原因があり、皮膚症状だけを見て「食物アレルギー」と判断することはできません。
今回は、秋に見られやすい皮膚やかゆみの変化と、環境・食事によるアレルギーの考え方、ご家庭でできる皮膚・被毛のケアについてご紹介します。
【🍂秋に見られやすい皮膚・かゆみの変化】
秋の皮膚トラブルを考える時には、まず「秋特有の環境の変化」に目を向けてみましょう。
秋口は残暑が続き、日によっては気温や湿度が高くなることがあります。
高温多湿の環境では皮膚が蒸れやすく、皮膚にもともと存在している細菌やマラセチアなどが増殖し、皮膚炎を起こすことがあります。
さらに季節が進むと、今度は空気が乾燥し始めます。
皮膚の表面には、外からの刺激や異物の侵入を防ぎ、皮膚内部の水分が失われるのを防ぐ「皮膚バリア」という大切な役割があります。
乾燥などによってこのバリア機能が低下すると、外からの刺激を受けやすくなり、皮膚が敏感なワンちゃんではかゆみにつながることがあります。
また、秋にはブタクサやヨモギなどの花粉が飛散します。
お散歩中に花粉などが足先やお腹、被毛に付着することで、環境アレルゲンに反応するワンちゃんでは症状が悪化する可能性があります。
このように秋は、
- 残暑や湿度
- 季節の変わり目による乾燥
- 花粉
- ハウスダスト
- ダニ
- カビ
など、さまざまな環境要因が重なりやすい季節でもあります。

【🔍花粉?ハウスダスト?それとも食べ物?】
犬のアレルギー性皮膚疾患には、花粉やハウスダスト、ダニなどの環境要因が関係するものと、食物が関係するものがあります。
犬のアトピー性皮膚炎では、
- 花粉
- ハウスダスト
- ハウスダストマイト
- カビ
など、身の回りに存在するさまざまな環境アレルゲンが症状に関係することがあります。
花粉のように飛散する時期が限られているものが関係していれば、
「毎年、春になるとかゆくなる」
「夏の終わりから秋に悪化する」
といった季節性が見られることがあります。
一方、ハウスダストやダニなどは一年を通して室内に存在するため、通年性の症状として現れる場合もあります。
では、食物アレルギーの場合はどうでしょうか。
食物アレルギーでは、原因となる食材を継続して食べていれば、基本的には季節に関係なく症状が見られます。
そのため、「秋になると毎年かゆくなる」という場合には、食事だけではなく、花粉などの季節性の環境要因についても考える必要があります。
ただし、
「季節性があるから食物アレルギーではない」
「一年中かゆいから食べ物が原因」
と単純に分けられるものでもありません。
環境要因と食物の両方が症状に関係しているワンちゃんもいるためです。
【🍴食物アレルギーはどうやって調べるの?】
「アレルギー検査をすれば、何を食べてはいけないのか全部分かるのでは?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、食物アレルギーは血液検査だけで確定診断できるものではありません。
現在、食物アレルギーの診断で基本となるのは「除去食試験」です。
これは、今まで食べたことのないたんぱく源などを使用した食事や、アレルギー反応が起こりにくいよう処理された療法食などを一定期間与え、皮膚症状が改善するかどうかを確認する方法です。
症状が改善した後に以前の食事を再び与え、症状が再発するかどうかを確認することで、食事との関連性を評価していきます。
この期間には、フードだけではなく、
- おやつ
- 人の食べ物
- サプリメント
- 味の付いた薬
- 歯磨き用品
など、口から入るもの全体を確認する必要があります。
自己判断で「鶏肉が怪しいから牛肉へ」「今度は魚へ」と次々にフードを変えてしまうと、何に反応していたのか分かりにくくなってしまうこともあります。
皮膚症状が出たからといって、すぐに「このフードが悪い」と判断するのではなく、まずは症状が出た時期や生活環境なども含めて振り返ってみることが大切です。
【🐶こんなしぐさも「かゆい」のサインかもしれません】
犬のかゆみというと、後ろ足で体を激しくかいている姿をイメージするかもしれません。
しかし、実際にはそれだけではありません。
例えば、
- 足先を繰り返しなめる
- 指の間をかじる
- 耳を頻繁にかく
- 頭を振る
- 顔を床やソファにこすりつける
- お腹や内股をなめる
- 体の同じ場所を繰り返しかじる
といった行動も、かゆみのサインとして見られることがあります。
特に「足をなめる」という行動は、飼い主さんが比較的気づきやすい変化です。
寝る前などに少し足をなめる程度であれば、必ずしも病気とは限りません。
しかし、
- 「以前よりなめる時間が長くなった」
- 「毎日同じ足をなめている」
- 「指の間が赤くなっている」
- 「毛の色が茶色く変色してきた」
という場合には、皮膚にかゆみや違和感がないか確認してみましょう。
また、耳もアレルギー症状が現れやすい場所のひとつです。
耳を頻繁にかく、頭を振る、耳の中が赤い、においが強くなった、耳垢が増えたなどの変化があれば、外耳炎を起こしている可能性があります。

【⚠️かゆみを悪化させる「二次感染」にも注意】
アレルギーのあるワンちゃんでは、皮膚を繰り返しかいたりなめたりすることで皮膚バリアが傷つき、細菌やマラセチアなどによる二次的な皮膚炎を起こすことがあります。
「アレルギーによってかゆい」→「なめる・かく」→「皮膚バリアが傷つく」→「細菌やマラセチアが増える」→「さらにかゆくなる」
という悪循環が起こることがあります。
- 皮膚の赤みが強くなった
- ベタベタする
- 独特のにおいがする
- フケが増えた
- ブツブツやかさぶたができた
- 脱毛してきた
などの変化がある場合には、単なるアレルギーだけでなく二次感染が起きていないか確認することも大切です。
【✨ご家庭でできる皮膚・被毛のケア】
1.お散歩後は足先や被毛をチェック
花粉などが気になる季節には、お散歩から帰った後に足先やお腹、被毛を確認してみましょう。
特に小型犬は地面との距離が近いため、草むらなどを歩くとお腹や足に植物や土などが触れやすくなります。
汚れている場合には、濡らした柔らかいタオルなどでやさしく拭き取りましょう。
ゴシゴシと強くこすると皮膚への刺激になるため、やさしく行うことがポイントです。
2.ブラッシングを習慣に
ブラッシングには、抜け毛や被毛に付着した汚れを取り除く役割があります。
また、毎日体に触れることで、
「ここだけ赤い」
「小さなできものがある」
「毛が薄くなっている」
「いつもよりベタついている」
といった変化にも早く気づきやすくなります。
ブラッシングの際には、背中だけではなく、脇、お腹、内股、足先などもチェックしてみましょう。
3.シャンプーは「洗うこと」だけが目的ではありません
皮膚トラブルがあると、「清潔にしなければ」と何度もシャンプーしたくなることがあります。
しかし、その子の皮膚状態に合わないシャンプー剤を使用したり、必要以上に洗ったりすると、皮膚の乾燥や刺激につながることがあります。
反対に、アレルギー性皮膚炎などでは、皮膚や被毛に付着したアレルゲンや余分な皮脂などを洗い流すことがケアのひとつになる場合もあります。
大切なのは、「たくさん洗えばよい」のではなく、その子の皮膚状態に合った方法を選ぶことです。
シャンプー後は洗浄成分が残らないようしっかりすすぎ、皮膚まできちんと乾かしましょう。
乾燥しやすいワンちゃんでは、犬用の保湿剤などを使用することもあります。
皮膚炎を繰り返している場合には、シャンプー剤の種類や洗う頻度、保湿方法についてもかかりつけの先生に相談してみましょう。
4.ベッドや毛布などの生活環境も見直してみましょう
皮膚症状がある時には、愛犬自身のお手入れだけでなく、普段過ごしている環境にも目を向けてみましょう。
- ベッドや毛布を定期的に洗う
- 掃除機をこまめにかける
- 室内のほこりをためない
- 湿度が高すぎないようにする
- 乾燥する時期には室内環境を調整する
といったことも大切です。
特に愛犬が長時間過ごすベッドやソファ、カーペットなどは、一度確認してみてください。
5.皮膚をつくる毎日の食事も大切✨
「食事だけが皮膚トラブルの原因ではない」とお伝えしてきましたが、もちろん皮膚の健康を維持するうえで、毎日の食事はとても大切です。
皮膚や被毛は、私たちが毎日食べている栄養素からつくられています。
特に、
- 良質なたんぱく質
- 必須脂肪酸
- ビタミン
- ミネラル
などをバランスよく摂取することは、健康な皮膚や被毛を維持するために欠かせません。
「皮膚に良いと聞いたものをたくさん与える」のではなく、まずはその子に必要な栄養が毎日の食事からバランスよく摂れているかを確認してみましょう。

【🏥動物病院へ相談した方がよいサイン】
皮膚のかゆみは、軽いうちには「もう少し様子を見てもいいかな」と思ってしまうこともあります。
しかし、かいたりなめたりする行動が続くことで皮膚が傷つき、短期間で症状が悪化してしまう場合があります。
特に、
- かゆくて眠れないほどかいている
- 一日中足先や体をなめている
- 皮膚が真っ赤になっている
- 皮膚がジュクジュクしている
- 出血している
- 急に脱毛が広がった
- 皮膚から強いにおいがする
- ベタつきが強い
- 耳を激しくかく
- 頭を何度も振る
- 耳からにおいや分泌物が出ている
- 同じ皮膚炎や外耳炎を何度も繰り返す
- 皮膚症状と一緒に下痢や嘔吐が見られる
といった場合には、一度動物病院へ相談しましょう。
また、かゆみの原因はアレルギーだけではありません。
ノミやダニなどの寄生虫、細菌や真菌による感染症などでも、赤みやかゆみ、脱毛が見られることがあります。
そのため、「毎年秋だからアレルギーだろう」「フードを変えたから食物アレルギーだろう」と決めつけず、必要に応じて皮膚検査などを行い、原因を整理していくことが大切です。
【📝皮膚トラブルの原因を探すために記録してみましょう】
動物病院を受診する際にも役立つのが、日々の記録です。
- いつからかゆがっているか
- どこをかゆがっているか
- 一日の中でいつ症状が強いか
- 去年も同じ季節に症状があったか
- 最近フードやおやつを変えたか
- 新しいサプリメントを始めたか
- シャンプーやケア用品を変えたか
- お散歩コースを変えたか
- 新しいベッドや毛布を使い始めたか
- 下痢や嘔吐など皮膚以外の症状はないか
などを記録してみましょう。
皮膚の赤みなどは受診する頃には一時的に落ち着いていることもありますので、症状が出ている時にスマートフォンで写真や動画を撮っておくのもおすすめです。
こうした情報を集めていくことで、
「毎年この時期に悪化している」
「草むらを歩いた日に足をなめることが多い」
「食事を変える前から症状があった」
など、原因を考えるヒントが見つかることがあります。

【まとめ】
愛犬がかゆそうにしていると、
「何か食べさせてはいけないものを与えてしまったかな?」
「今のフードが合っていないのかな?」
と、食事が心配になることもあると思います。
もちろん食物が関係しているケースもありますが、犬の皮膚トラブルには、
- 「花粉などの季節性の環境要因」
- 「ハウスダストやダニ」
- 「気温や湿度、乾燥」
- 「細菌やマラセチアなどによる二次感染」
- 「食事」
- 「寄生虫」
など、さまざまな要因が関係しています。
そして、ひとつだけではなく、複数の要因が重なって症状が出ていることも少なくありません。
大切なのは、皮膚症状が出たからといってすぐに「食事が原因」と決めてしまうのではなく、
- 「いつから?」
- 「どこが?」
- 「どんな時に?」
- 「去年の同じ季節は?」
- 「生活環境や食事に変化はあった?」
- と、愛犬の生活全体を振り返ってみることです。
足をなめる、耳をかく、皮膚が少し赤いなど、毎日の生活の中で見つけられる小さな変化はたくさんあります。
普段から愛犬の皮膚や被毛に触れ、「いつもの状態」を知っておくことが、トラブルの早期発見にもつながります。
季節の変わり目となるこの機会に、ぜひ愛犬の足先や耳、お腹、被毛などをゆっくりチェックしてみてくださいね。
